旧世界より

白濁の太陽が風に光っていて
どこへでも行けそうな気持ちに嘘ついた
子供の頃住んでいた街と同じチャイムで
壊れたオルゴールを捨てて歩いていく

泣いてばかりだったね
たくさん嘘ついたね
最後の最後までそうだった
話しそびれたこと
今更になって浮かんでくる

あなたには聞こえない声で
呼んでみた その名前を
凍てついた夏空に触れて
記憶はそこで今日も途切れていく

眠りから覚めたって
それはまた夢
どこまで歩いたって
油絵の砂浜

忘れることだけを
生きる術にしてきた
それをあなたが隠してしまった
そろそろ返してよ ねえ
全ては潮騒の彼方

巻き鍵を回す音が
聞こえたような
そんな気がした

あなたには聞こえない声で
叫んでみた さよならと
この海一つに有り余る哀で
何度でも思い出してあげる
次にこの額を撫でる手が
どうかしわくちゃであればいい
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